過敏性腸症候群は、便秘や下痢、お腹の張り、腹痛などをきたす病気です。日本では10人に1人がこの病気を持つといわれています。これらの症状は、ストレスや不安、知覚過敏、腸内細菌、腸内炎症、食物アレルギー等の要因が複雑に絡み合って発生しますが、明らかな原因はわかっていません。胃腸炎を患った後や虫垂炎・胆石などの手術後に発症することもよくあります。
診断には国際的な基準(Rome Ⅳ診断基準)が用いられています。
過去3カ月の間に1週間あたり1日以上にわたって腹痛やお腹の張りが繰り返し起こり、下記のうち2項目以上に該当する必要があります。
加えて、大腸がんや腸の炎症・感染症、膵疾患、甲状腺疾患や糖尿病などでも類似の症状を認めることがあるため、大腸内視鏡検査や血液検査、腹部超音波検査や腹部CT検査、尿検査・便検査などを実施して、これらの疾患がないかを否定する必要もあります。
治療は生活改善と薬物療法、心理療法になります。最近では特殊な食事療法(低FODMAP食)が注目されており、従来の治療が無効の方、特に下痢やお腹の張りの強い方には試してみる価値があります。
1. 食事に気をつける
暴飲暴食、偏食を避けます。
炭水化物・脂質摂取、香辛料、アルコール、カフェインを含んだ飲料、乳製品により悪化する可能性があり、「これを食べると痛くなる」と自覚している場合、それを避けます。
タバコは過敏性腸症候群の症状を悪化させることがあります。
2. 規則正しい生活をとる
規則正しい生活、十分な睡眠が必要です。
社会的ストレスが発症・増悪因子となるため、ストレスを貯めないことが肝要です。
3. 薬物療法
腸管の内容物を調整する薬物や腸管の機能を調節する薬物が用いられます。
下記の薬剤がよく用いられ、これらを組み合わせて使います。
①整腸剤(プロバイオティクス)
ビオフェルミン製剤には腸管の微小炎症を鎮静化する作用があり、下痢や便秘などの症状改善が報告されています。
②ポリフル・コロネル(高分子重合体)
大量の水分を吸収してゲル化することで、便は適度の水分を含み便の容積も増します。(紙おむつのイメージ)
食物線維の摂取量が少ない便秘の人や下痢型に対して使用がすすめられます。
②セレキノン
減弱した腸管には蠕動を活発化させ、逆に亢進した蠕動を抑制する効果があります
便秘、下痢どちらにも効果があると言われています
低用量では消化管運動を促進、高容量だと抑制的に働くと言われてい突発的な痛みの予防には効果があり、副作用はほとんどみられません。
③イリボー(セロトニン受容体(5-HT3受容体)拮抗薬)
腸管蠕動運動の活発化や腸管水分輸送異常の改善を促し、下痢を抑制し、便形状や便意切迫感を改善させます。
腹痛や腹部不快感など内臓知覚過敏を改善する効果もあります。
下痢型の特効薬です。
④トランコロン(抗コリン薬)
腸管運動を抑制し、腹痛が強い症例に向いています。
便秘の方には不向きです。
副作用として便秘、排尿障害、視調節障害、眼圧上昇、口渇、眠気、めまい、心悸亢進などが見られ、前立腺肥大や眼圧の高い緑内障の方には使用できません。
⑤ロペミン
腸管運動を抑制し、腸管水分の吸収を促進して下痢を止める薬です。
作用が強いため、旅行やイベントなど、どうしてもの時の頓用に向いています。
細菌性腸炎や腸閉塞などでは、病状が悪化するため使用できません。
⑥ガスモチン(セロトニン5-HT4受容体刺激薬)
日本で唯一使用できる5-HT4受容体刺激薬です。
便秘に対し効果があるとされガイドラインでも推奨されていますが、過敏性腸症候群に対して保険適用がありません。
⑦下剤
浸透圧下剤をまず使用します。酸化マグネシウムが主流で、腎機能の悪い方や小児にはモビコール(ポリエチレングリコール)がすすめられます。
センナなどの刺激性下剤は、耐性(薬が効かなくなる)の問題があり、頓用としての使用がすすめられます。
⑧新しい下剤:アミティーザ、リンゼス、グーフィス
腸管内への腸液の分泌を上げ、便を柔軟化し、腸管内輸送を高め排便を促進します。リンゼスは知覚過敏を抑制するため、お腹の張りを強く訴える場合は効果が期待できます。
⑨漢方薬
腹痛の改善には桂枝加芍薬湯です。
便秘、お腹の張りには大建中湯が有効です。特に手術後の方によく効きます。
⑩抗うつ薬・抗不安薬の併用
三環系抗うつ薬、SSRIなどの抗うつ薬が有効です。通常より少ない量で効果のみられることが多いですが、便秘、ふらつき等の副作用に注意が必要です。
不安が強い場合はベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存性(薬をやめれなくなる)の問題があり、非ベンゾジアゼピン系のセディールなどを使用します。
4. 低FODMAP食(新しい食事療法)
低FODMAP食は、最近注目されている食事療法です。過敏性腸症候群を引き起こす食品成分の頭文字をとって“FODMAP”とし、“FODMAP”の少ない食生活を実施し、過敏性腸症候群の症状改善を得る治療です。
FODMAPを構成するアルファベットはそれぞれ、
F(Fermentable):発酵性
O(Oligosaccharides):オリゴ糖
D(Disaccharides):二糖類
M (Monosaccharides):単糖類
A (And)
P (Polyols):ポリオール(多価アルコール、糖アルコール)
を意味します。
全て食物繊維・オリゴ糖・糖質です。これらには、「発酵性が高い」とか、「低分子」とか「腸内細菌で急速に発酵する」など、幾つかの共通点があります。一般的に“発酵食品や食物繊維は腸にやさしいもの”と考えますが、FODMAPの理論では“これらの食品は逆に過敏性腸症候群を引き起こすもの”、ということになります。
つまり一部の過敏性腸症候群の人において、FODMAPは消化・吸収しづらく、腸内細菌により過剰に発酵されるため、おなかのゴロゴロや張り、下痢などの原因になっているのです。
FODMAPの含まれる食べ物は複数ありますが、どの食品があわないかは一つひとつ自分の身体に聴いて確かめるしかありません。
まずは3週間FODMAPの摂取を完全に中止します。するとおなかのいろいろな症状が収まっていきます(FODMAPの多い食品はこちら)。
腸が静かになったところで、1週間に1種類ずつ4つの糖質(オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール、詳細はこちら)を再開していきます。調子を悪くする糖質を含んでいると、おなかが過剰に反応するため、自分にあっていない食品がはっきりわかるはずです。
全部の高FODMAP食品がずっと食べられないわけではないことに注意してください。高FODMAP食でも食べられるものはあります。
「傾聴」ならぬ「傾腸」が大事だと言われています。これは自分の腸の声をしっかりキャッチし、それに従うことです。自分の腸がどんな食べ物で調子を崩すかは、自らが腸と対話しながら実際に試さなければわかりません。従来の治療で効果のない過敏性腸症候群の方は一度試してみる価値がありそうです。
医院名 | もとまち内科クリニック |
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院長 | 伊藤 裕也 |
住所 | 〒471-0855 豊田市柿本町7丁目66-1 |
診療科目 | 内科 消化器内科 |
電話番号 | 0565-24-8080 |
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